宮田人
宮田風景 宮田概論 宮田学 駄文集 活動報告 自己紹介 その他
駄文集

大森彌『変化に挑戦する自治体 希望の自治体行政学』(2008年 第一法規)を読む
長野県地方自治研究センター『信州自治研』第201号(2008年11月号)

天野 早人

本書は、東京大学の大森彌名誉教授が、長年にわたる業績や体験を集約し、地方自治の諸課題について考察したものである。著者は、行政学を「国の行政学」と「自治体の行政学」に分類し、それぞれ理論化したいと述べている。副題のとおり、本書は後者を扱った著作である。

全部で八つの章から構成されている。序章の「変化の中の地方自治」では、つづく各章で詳述される諸課題について幅広く概説される。著者は、地方自治を「一定の地域における住民とその代表機関の活動である」と定義し、団体自治と住民自治の充実が、その発展につながると考えている。また、三位一体の改革については、「改悪を図ろうとする動きこそを警戒すべきであった」とし、ナショナル・ミニマムを問い直す必要性に言及している。

第1章の「自治体の基本制度」においては、そもそも自治体とはなにかということを明らかにしている。国と都道府県あるいは市区町村の関係は、上下・主従ではなく、対等・協力であるべきだとし、市区町村を「基礎自治体」、都道府県を「広域自治体」と呼ぶことにこだわる。

本章のもう一つの大きな柱は、地方公務員の課題である。たとえば、職階制が厳密に実施されていないことに疑問を投げかけている。職階制によって、ふさわしい資質・能力をもつ人材配置と、内容と責任に応じた給与支給が可能になるとみている。

第2章の「合併を迫られる市町村」では、平成の大合併の経緯を整理した上で、今後のあり方が論じられている。著者は、2000年前後が政治的分岐点であったとし、とりわけ自民党の軸足が農山漁村地域から都市部へシフトした時期と重ね合わせている。そして、「基礎自治体を人口規模で再編することは補完性の原理の誤用」であるとし、自治体の人口要件を否定している。

反面、小規模町村の事務権限縮小や都道府県による肩代わり案に反対するならば、全国町村会が提言する「市町村連合」を早期に実証し、「多様な自治体が共存しあう地方自治制度」を構築していかなければならないことも説いている。

第3章では、「合併後の基礎自治体運営」と題し、平成の大合併の動向と課題を取り上げている。著者は、「国から見れば、進展度という点では『大きな成果』を上げつつある」と分析し、今後は「道州制導入との関係で再燃する」と予測している。また、「地域自治区」については、①合併による職員の削減に職員自身がどう対応していくか、②住民自治を実現できるのか否か、が問題であるとする。この二つの問題を乗り越えられなければ、「やがて単なる出先機関化していく」と懸念している。

道州制に関しては、積極論者ではないと前置きした上で、「都道府県を越える行政を直ちに国の責任にするような発想と制度を打ち破っていくために、より広域の地方政府単位の可能性を検討せざるをえなくなる」とも述べている。

第4章の「新たな公共空間の形成と協働」は、2003年に第27次地方制度調査会が打ち出した「公共空間」についての考察が中心である。まず著者は、「公共空間」は公共領域と同義語で、「公共活動が存在し、公共現象が起こっている場所」であると定義し、さらに「新たな活動主体が参入する余地がある場所」と付け加えている。次に、公私二分論に対する「公私三分論」を提示し、それについて「私的領域・共同(公共)的領域・行政的領域という三分論を構想し、その共同の領域を拓く拠点をコミュニティ形成に求めること」であると説明している。

「協働」については、「民間委託を超え、今まで行政の守備範囲であった事務事業の一部を行政から切り離し、住民・民間による公共的活動に委ねようとする発想」であるとし、①既存の役所に変わって別の形の役所になってしまうのではないか、②既存の役所との連携が容易ではないのではないか、③都市部と農村部の違いを超えて全国的に可能なのか、という問題をとおして、自治体職員が自らのあり方を問う契機になると論じている。

第5章の「問われる自治体職員のあり方」では、自治体職員が「国の通達や指導を楯にとって住民の要望を拒み、責任を回避しようとすることが少なくなかった」とし、「地域住民に向け、その要望と批判に鋭敏かつ誠実に応答する体制を確立しなければならない」と語っている。さらに、分権改革には職員の意識改革が不可欠であるとし、意欲と能力を正当に評価できるような「人事管理システムの絶えざる技術開発」が求められていると述べている。

職員給与や各種手当てについては、「自治体職員に求められている仕事と、その対価としての給与や福利厚生の適正水準を全体として再検討することは避けられない」とし、これまでの労使交渉が住民自治を排除して行われてきたことを問題視している。

第6章は「地方議会の改革」である。第一次分権改革によって、議会の責任が重要になっているにもかかわらず、活発あるいは有効に機能していないとし、「危機の本質は議会・議員の危機意識の希薄さにある」と指摘している。最初に、「議員定数の削減」と「議員の職務・定数・報酬の一体的検討」の必要性をあげ、「ある地域における議会は何人で構成するのが適当であるかについて住民の参加を得た議論・検討」が十分でないとし、単に議員を減らすということではなく、「議員は何人でどういう職務を担い、いくらの報酬を支払うのか、これを、二元代表制の意義と住民自治の充実の観点から、全面的に検討する必要が出てきた」と述べている。

さらに、「改善・改革を怠れば、議会と住民の疎遠、ひいては住民の議会不信に発展しかねない」とし、①議会の政策形成機能を充実させること、②議会審議における質問の事前通告を廃止すること、③自治体議会議員の法的位置付けを明確にすること、などを訴えている。

最終章となる第7章では、「三位一体改革から第二次分権改革へ」と題し、さらなる分権を実現するために、多くの課題を解決していかなければならないことを指摘している。たとえば、三位一体の改革をめぐる攻防を振り返り、義務教育行政と生活保護行政を取り上げている。前者については、「教育委員会を自治体の任意設置にするのではなく、明確に廃止し、教育行政全体を公選の首長と議会の統制下に置くべき」とする。後者については、「現金支給の所得配分行政は国境管理権を持つ国の本来的仕事」であるとし、「基礎自治体はあくまでもサービスのかたちで行う仕事に徹すべき」と論じている。

第二次分権改革については、「地方財政計画を縮小し、地方財政制度の根幹をなす財源補償を圧縮しようとする」可能性があることに警鐘を鳴らしている。最後に、第二次分権委員会がまとめた「中間的な取りまとめ」を紹介する中で、税財源の分権が進みそうにないことを予想し、分権委員会の奮闘に期待している。

以上のように本書では、山積する自治体の課題が全体的に取り上げられている。一体なにが起きているのか、なにが求められているのか、自治体のこれからを考えていく上で、多くの示唆を得ることができる。

三位一体の改革や市町村合併の大きな波が一段落したものの、道州制の着地点はなかなか見えてこない。税財源の問題を含め、第二次分権改革が及ぼす影響も読み切れない状況が続いている。ここにきて、景気の見通しも悪くなってきた。自治体においては、行政や議会が緊張感を持って職責を果たし、住民の理解と協力を得ながら、たゆまぬ改善・改革に取り組むことが求められる。

本書を読むことで、今が自治体の大変革期にあることを、それぞれの立場において再認識することができるだろう。

2009年01月01日
戻る (C) Hayato Amano,All rights reserved. トップページ
(C) Hayato Amano,All rights reserved.